ぽかぽか陽気
頭がぼんやりとしている。やわらかな陽が注ぐ公園のベンチ。うとうとと居眠りをしていた私は、いまだ夢の中なのか。それとも目覚めているのか、よく分からない……。
遠くの方から、叫び声が聞こえる。公園内を大勢の人が逃げ惑う。押し退け、転び、踏み越えて、誰もが我先に駆けようとする。
ビルの谷間に大きな違和感。昔見た映画のように、怪獣がビルを破壊している。
警官が拳銃を片手に立ち向かい、軽い発砲音を響かせながら、人々を誘導すべく必死になっている。しかし怪獣は、ちっぽけな拳銃の弾など感じもせずに、破壊衝動に突き動かされてビルの破壊に励む。
上空から暗褐色の戦闘機が飛来し、ミサイルを放つ。怪獣はミサイルをつかむと、短い腕を器用に振って戦闘機へと投げ返す。命中。怪獣に対する人間の無力さを痛感させられる。
……これは、まずい。私は、いまだ夢の中にいるようだ。はやく目覚めなければならない。もう昼休みも終わる頃に違いないのだから……。
怪獣が移動を始める。パトカーや路駐の車を蹴散らしながら、こちらへと迫ってくる。
私と怪獣の間には、足に怪我を負い、それでも地面を這い進む人がいる。その眼は恐怖で見開かれ、命を繋ぐために伸ばされた腕が、私に助けを求めている。背後には怪獣。危ない、と思う間もなく、たやすく踏み潰されてしまう。
悪夢だ。これはもう悪夢だ。眼の前で蹂躙された命。断末魔の叫びが、耳の奥にこびりつく。いい加減、覚めてくれないだろうか。こんな夢など、もう見ていたくない……。
急激に辺りが暗くなる。私の頭上に、怪獣の足の裏。硬そうな表皮。絶体絶命。
耳を圧する怪獣の咆哮。遠ざかる足の裏。飛ばされて、接地。無傷であった建物を破壊しながら地面を滑ってゆく怪獣。
見上げると、そこに巨大な背中。駆け出して怪獣と対峙する。救われた。どう見てもヒーローだ。醜悪な外見の怪獣にくらべ、より人間に近い体つきをしている。助けを求めるならば、直感的に後者の方だろう。
まさかヒーローまでが登場するとは、なんとも手の込んだ夢ではないか。
組み合う両者。殴り、殴られ、蹴り、蹴られ、強大な力が拮抗し、戦いが長引き、街は瓦礫の山へと化してゆく。
ヒーローの足元に、逃げ遅れた少女が一人。子犬を抱き締め泣いている。最大のピンチ。気をそらされ、怪獣に隙をつかれる。
これで私の夢も、ようやく終わるだろう。ここでヒーローが必殺技を繰り出し、無事に幕を下ろすのだ。だが、どうも様子がおかしい。ヒーローが怪獣に持ち上げられてしまった。
……そうか、なんて私は浅はかなのだろう。ヒーローには、一度負けてしまったと思わせるような節がある。そこから、起死回生の必殺技。出し惜しみの取って置き。もったいぶったヒロイズム。
ヒーローが、投げ飛ばされる。
がんばれ、などと思わず声をかけたくなる場面。同時に、無責任さと無力感が胸の辺りにチクリと刺さる。
ヒーローが、公園に飛ばされてくる。
ちょっと待ってくれ、このままではヒーローの下敷きになりそうだ。……だが大丈夫。あくまでも私の夢なのだから、私に危害が及ぶはずがない。そうだろう?
ヒーローが、このベンチに迫っている。
こんなにも危機感を抱かせるとは、とんでもない夢ではないか。だが、もういい。もう充分だから、はやく目覚めないか私よ。
ヒーローが、目と鼻の先にいる。
覚めろ。覚めない。何故だ。これは夢じゃないか。違うのか? 嘘だ。嘘だろ。なあ、おい。嘘だよなあ。
ヒーローが、私にぶつかっ、ぎゃああぁ…………