卒業式

           卒業式
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 卒業生代表が、壇上にあがった。
 俺をふくむ二百人ほどの卒業生がいっせいに起立すると、緊張した面持ちの卒業生代表が深呼吸し、大きな声でもって「呼びかけ」が始まった。
「環境の変化に不安を抱きながら、新たな生活をスタートさせた……」
「わたしたち」
 昨日の予行演習どおり卒業生代表の言葉を引き継ぎ、俺たちは声を合わせ斉唱する。
「初めて会う者同士、戸惑いのなかで行われた……」
「自己紹介」
 俺たちは様々な地域から集まってきていたから、とうぜん顔見知りなんていなかった。ゼロからのスタート。そわそわとお互いを探り合うような、そういった自己紹介だった。
「限られた時間のなかで多くを学び、共に育んできた……」
「希望」
 卒業後の進路は、いまだに漠然としている。正直、不安で胸が押し潰されそうだ。でも俺は、この希望ってやつを失うことなく抱き続けたい。それがなければ、けっして先へなど進んで行けないのだから。
「意見の違いやコミュニケーション不足を乗り越え、お互いを知ることで培った……」
「きずな」
 育った環境の違いや言葉の使い方から生じた些細な対立やつまらないケンカも多かったけれど、卒業が差し迫るにつれて自然と気持ちが一つになった。間違いなく、みんなが目指し想うところは一緒なのだ。
「お互いの能力を見極めることで、在るべき適材適所を見出した……」
「総合実習」
 総合実習では、農業や工業、はては簡単な医療技術から操船技術までも学んだ。まあ、他にも色々と教え込まれたけれど、俺たちはその中から得意な分野を伸ばし磨いた。ここにいる卒業生のなかには、誰一人として欠けて欲しいヤツなんていない。お互いがお互いを必要とし補い合える、俺たちはそういった仲間へと成長した。
「母なる大地の大切さを、あらためて学んだ……」
「環境問題」
 いまさら言うまでもなく、遠い過去に比べたら地球の環境は破壊されすぎた。巻き戻せない時の流れ。失ってから気づく、普遍と見えた多くの奇跡。後悔はする。だけど、絶望はしたくない。今後の人生に生かすべく、俺たちは充分すぎるほどに環境破壊がもたらす痛みを学んだ。
「先生方や職員の方々の支えのおかげで……」
「充実した七ヶ月間を送りました」
 とても慌しく苦しい日々の連続に耐え切れず逃げ出した人もいたけれど、この場にいる俺たちは、生きるすべを身につけ生かそうと歯を喰いしばり必死に耐えてきた。そうして、卒業という新たな旅立ちを迎えることになった。もちろん、先生方や職員の方々も卒業生の一員だ。
「わたしたちは、今日という日をもって……」
「この地球を、卒業します」
 高らかな宣言を最後に卒業式は終わり、太陽系外惑星移民短期プログラムも終了となった。しかし、感傷に浸っている暇などない。 
 世界各地から探し出され寄せ集められた人類最後の生き残りである俺たちは、この地下施設で学んだことを実地で活用すべく、生存可能な環境の惑星を求め速やかに宇宙船に乗り込まなければならない。
 これより、ながいながい旅が始まる。
 地球が崩壊するまでの時間は、ほんのわずかしか残されていない。