海水浴場
夏休みになり、友人が泊まりにきていた。
「なんだよ、こんな時間から起こすなって」
「いいから、いいから」
数時間後に海水浴にくる予定の砂浜を、早朝から散歩する。
「日の出かあ、きれいなもんだよな」
「違うちがう、足元を見てみろって」
朝日をあびて、砂浜がキラキラと光を帯び始めた。そのなかに、違和感のある鈍い光が混じっている。
「ほら、あった。百円の儲け」
この時季の砂浜には、海水浴客の落し物がわりと多い。アクセサリー類やライターもあったりするが、狙い目は小銭だ。
「おっ、五百円だ。ついてるな」
友人も味をしめたらしい。嬉々として探し回っている。早朝から叩き起こしたかいがあった。
「なあ、きてみろよ」
友人が、なにか見つけたようだ。
「これ、なんだと思う」
砂の隙間から、きらびやかな輝きが漏れている。
「よく分からないけれど、ダイヤモンドじゃないのか」
覆われた砂を、すこし払ってみる。するとダイヤモンドがちりばめられた、まぶしすぎる腕時計があらわれた。
「なあ、これ売ったらいくらになるかな」
「さすがに、まずくないか。小銭を拾うのとじゃ、レベルが違うだろ」
それでも友人は、砂に埋もれた腕時計に手を伸ばした。
「なんだこれ、重いな」
両手でつかみ、強引に引っ張る。
「ったく、ずいぶん重いと思ったら、まだはまってるじゃないか」
「そりゃそうだろ。腕時計なんだから、腕にはめるさ」
「どうやって外すんだよ、これ」
「……おい」
「扱いが分からんなあ、高級品は」
「おいったら」
「うるさいな、なんだよっ」
「腕だよ、……腕」
「そうだよ、それがどうかし……」
その日、海水浴場は閉鎖された。