魔法使いの技

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 わたしは妻を殺したい魔法使いである。
 それくらい魔法を使えば簡単じゃないか、と思われるかもしれない。
 事実、極めて簡単なのである。
 杖からほとばしる炎をあびせたり、巨岩を頭上に落したり、突風をおこし崖下に吹き飛ばしたりすれば、それで済むのだから。
 わたしの腕前は一流のうえに超がつく。
 だが残酷な手段は避けたかった。
 倦怠期をむかえたとはいえ、辺鄙な山奥で五年も連れ添った妻である。そうと気づかぬうちに、あの世へ送ってやるとしよう。
 そうして妻の言葉に魔法をかける。妻の言葉が、そのまま現実となるような。
 あとはただ、妻が死に至る言葉を発するよう手を尽くし励むだけでよかった、のだが。
「はあ……ほんと下手なんだから」
 一年ぶりに妻から身を離してベッドに腰かけながら、わたしは新たな手段が必要であると痛感する。