にのあし
「どうかしら坊や、このウィンナー気に入った? いま食べたのは試食だから、もし美味しくてまた食べたいなあと思うなら、ママにこの商品を買ってって言ってちょうだいね」
「う~ん……」
“ニキビ用洗顔クリーム二週間お試し品をご利用頂きありがとうございました。引き続きご利用の場合は、お近くの薬局等でお求めください。なお、アンケートのご協力をお願い致します。同封のアンケート用紙に――”
「う~ん……」
「いや~面白かったな。派手なアクションの連続なのにミステリー仕立てで、同時に人の本質を探る思索的な部分もあるしさ。やっぱり洞察力に優れた監督がアクションを撮ると違うな。試写会に当たってよかった。公開されたらもう一度この映画観るよ。お前もそう思うだろ?」
「う~ん……」
「こちらの大吟醸の方が、そちらの吟醸酒より口当たりがまろやかで芳醇な香りがより引き立って感じられると思いますが、いかがです? なるほど、そうでしょうとも。普段日本酒を召し上がらない若いお客様には、こちらの瑞々しく口当たりのやさしい方をお勧めしております。どうぞご試飲ください。どうです、飲みやすくなっていますでしょう?」
「う~ん……」
「いかがでしょう、お客様。どこかきつかったり、ゆるかったり致しませんか? そうですねえ、サイズはぴったりでとてもお似合いでございます。しかし初出勤にご着用なさると仰っておいででしたので、こちらの少し明るめのスーツの方が色合いもよく爽やかな印象をもたれるのではと思いますが、いかが致しましょう。こちらもご試着なされますか?」
「う~ん……」
「どうです? 少しアクセルを踏み込んだだけで力強く加速しますでしょう。それでいて燃費も抜群にいいんです。この新車を試乗したお客様の多くから、即ご契約の申し出をたまわっているんですよ。いまでしたら納車まで時間もかかりませんが、いかがです?」
「う~ん……」
「ねえ、なんとか言ってよ。もう五年も経つんだよ。いつまでなの? ずっとなの? ねえ、なんとか言いなさいよ。このまま同棲し続ける気なの? ねえったら、そんなの許さないわよ。ねえちょっと、聞いてる? ねえったら。ああそう、そうなの。そうか、そうなのね。ええ、そうなのよね。分かったわ」
「うぐ……」
「……とまあ、あなたが人間として生まれ変わった場合このような最期を迎える可能性が非常に高いわけですが、どうします? もちろんあなた次第では改善の余地だってありますよ。ええ、こうならない場合もありえますから。しかし一度生まれ変わると潰しがききませんのでねえ。まあだからこそ、選ぶも選ばざるも、歩くも歩かざるも、あなた次第なんですがね。断っておきますが戻ってきた時、間違っても私の責任だなんて仰らないでくださいよ。お願いします。それはさておき、こうして足早に人生のお試し体験をして、ここでの記憶も消去されてしまいますが、それでもあなた、あちらに生まれ変わりますか?」
「う~ん…………」
「おぎゃあ、おぎゃあ、おぎゃあ」