ブロックを積む男
おいらは積むのさ、ブロックを。
ほい、ほい、ほい。
新たな塀をつくったり。
ほい、ほい、ほい。
壊された塀をなおしたり。
ほい、ほい、ほい。
おいらは積むのさ、ブロックを。
ほい、ほい、ほい。
いつものラジオを聴きながら。
ほい、ほい、ほい。
「あのう、ご苦労様です。お仕事中に邪魔しちゃってすみません。これよかったら、休憩の時にでも召しあがってください」
どこぞの兄ちゃん、やってきた。
コーヒーとジャムパン持ってやってきた。
おう、おう、こりゃすまないね。
さっそく手を止め、タバコを一服。
ぱかっと缶開け、ぐびっとコーヒー。
ジャムパンかじれば、疲れにさよなら。
「それにしても大変な作業ですね。ここの塀はずいぶん派手に壊れましたから。さっそく補修していただいて、ほっとしてます」
おい、おい、どうした兄ちゃんよ。
おんなを泣かせたわけじゃなし。
くもり顔しちゃ、男前がだいなしよ。
「いえね、ここは通学路ですし、子供たちが心配で。なかには崩れたブロックで遊ぶ子もいるでしょうから、怪我でもするんじゃないかと気がかりだったんですよ」
ほう、ほう、殊勝な兄ちゃんだ。
おいらの心も洗われた。
おもわずタバコを勧めたね。
「すみません、ありがとうございます。でも僕はタバコを吸いませんので、申し訳ありませんけど、お気持ちだけいただきます」
おや、おや、肺まで綺麗じゃ恐れ入る。
気持ちがいいから、もう一服。
ぷはっと煙で輪をえがく。
「あっ、ちょっとすみません」
びーびー音に呼び出され、兄ちゃん誰かと話してる。
便利な世の中、驚いた。
腕時計にひとの顔。
「職人さん、僕、急用ができましたので、これで失礼します。それと、そのう……すみませんでした。僕、以後気をつけますから、補修作業よろしくお願いします」
おいらにゃわからん謝罪のべ、兄ちゃん慌てて走り出す。
その背に、お礼のごちそうさん。
そろそろ仕事に戻ろうかい。
それっ。
おいらは積むのさ、ブロックを。
ほい、ほい、ほい。
新たな塀をつくったり。
ほい、ほい、ほい。
壊された塀をなおしたり。
ほい、ほい、ほい。
おいらは積むのさ、ブロックを。
ほい、ほい、ほい。
いつものラジオを聴きながら。
「番組の途中ですが、ここで臨時ニュースをお伝えします。先ほどから井の頭公園付近におきまして、謎の怪人が暴れているとのことであります。近頃頻繁に出没している怪人と同一であると思われ、例のヒーローともくされる人物の到着が待たれるところでありますが、今後事件の詳細につきましては情報が入り次第、随時お伝えしていきます」
ほい、ほい、ほ……ん?